天然のエアコン

天気予報、当たりましたね。

現場はお休みです。

梅雨はまだまだ先なのに・・・。

気を取り直して、『木』のお話しなどいかがでしょうか。

「有名な正倉院という建築がある。」

「知っての通りあれは校倉造りと言って、太い木材を横に寝かして重ねていき、壁にすると同時に構造体にしたものだ。」

「その建物は保存庫として使われ、飛鳥時代の工芸品を納めていた事も知ってるだろう。?」

「この宝物が、1300年経った現代まで大して傷みもせず、最近作ったと言ってもおかしくない姿を見せているのは、当時の工芸技術が素晴らしいものだったという事もあるだろうが、実はこの校倉造りのおかげなんだ。」

先生の目が何となく輝いてきました。

新吾君と親方も膝を乗り出しました。

「木材は湿気を吸い込んだり吐き出したりする。だから木材を沢山使った部屋の湿気はいつでもほぼ一定に保たれている。」

「図を見てごらん。これはスギ板張りとガラス張りの箱を作り、その中に自動記録式の温度計と湿度計を入れた実験結果だ。3日間の測定で箱の外の温度は、当たり前だが昼間は高く夜は低くなっている。箱の中でも大体同じ事だ。」

「本当は木は熱を伝えにくいから、木の箱の中の温度はもっと変化がなだらかになっているはずなんだが、この板は13ミリであまり厚くなかったのでその効果はわずかしかなかったらしい。」

「ところが、湿度の方はどうだろう。密閉されていない箱の外はメチャメチャだが、ガラス箱の中は温度が下がれば湿度が上がり、温度が上がれば湿度が下がるというサイクルを繰り返している。一方、木の箱の中では温度の上下に関わりなく湿度はほとんど一定だ。湿度が上がってくれば木の壁が水分を吸い込み、湿度が下がれば木の壁が水分を吐き出すからだ。」

「これが校倉造りの働きだったのだ。屋外の温度がどう変わろうが室内の湿度はいつも安定している。しかも正倉院の壁は厚い木材だから温度を安定に保つ効果も働いたと言える。」

「物が傷むのは、温度や湿度が変化する事が基になっているが、特にそれが極端になってはいけないのだ。」

やっと一息入れて先生は杯に手を伸ばしました。

「先生、正倉院じゃね、天気の日には木が縮んで校倉の木と木の間に隙間が出来る。雨の日には膨らんで隙間が塞がり、湿った空気を入りこませない。だから宝物が保存出来たんだ。という話を聞いたが、その辺りはどうなんですか。」と親方。首を前に突き出しています。

「うん、そんな説もあるね。その方が話としては面白いが、昔エライ人が言ったんで広まったんだろう。でも降ったり晴れたりで伸び縮みするのは、あんなに厚い材ではほんの表面だけだから、いささか出来過ぎで疑わしい。やはりボリュームのある木の壁の調湿性おかげだろう。」と先生。

「それ以上に、実は正倉院の工芸品は普段はスギの唐櫃の中にしまってあるそうだ。その箱の効果の方が一段と大きいかもしれない。キリの箪笥の効用などと言うのも半分以上はこの湿度を安定させる働きなんだ。」

「要するに、木の働きは今も昔も同じことだ。木をふんだんに使った室内は、湿り過ぎたり乾きすぎたりする事がなく、快適なのだ。宝物に良い事はそれ以上に人間にとつても良い事だ。」

「木は、実に健康的な建材と言える。木は天然のエアコンだと言ってもいいくらいだね。」

先生は胸を張りました。まるでお国自慢をするような塩梅です。新吾君はちょっとからかってみたくなりました。

「先生、正倉院は昔の事でしょ。今じゃ本物のエアコンが普及して部屋の中の湿度や温度は調節出来るじゃない。何も木に拘らなくたっていいでしょ。宝物殿だって、この頃はエアコン付のコンクリート造だよ。」

先生はちょっと眉を寄せます。

「何を言うか、認識不足だよ。エアコンなんて、測ってみたら温度ムラがひどいものだぞ。エアコンの前はやたらと涼しくて、他は暑いなんてのが普通だよ。湿度はもっとひどい。クーラー病などと言うものもあるじゃないか。エアコンを入れるのはいい。だけどエアコン付の部屋だって、木材がある事で室内の湿度は平均化するんだ。この事は忘れちゃいけないよ。」

「ひどい時には室内にカビが生えそうな高湿度と、喉が痛くなりそうな低湿度とが同居している事になる。」

「宝物館などのエアコンはさすがにそれほどの事はない。ゼニをかけてあるだけあって室内のムラは避けられるようになっている。だけどそれだけでは不十分だという事が次第にわかってきた。」

「だからエアコン付のコンクリート造の宝物館だって、少なくても床は全て木のフローリングを貼ってあるし、壁にも木を貼る。湿度を柔らかく平均化するためだ。」

「この頃では無機質の内装材量で調節出来る性質を持つものは作られているが、木材には及ばない。」

「宝物館がコンクリート造なのは火災を恐れるからだが、床は火災にあまり関係ないし燃えやすいのは薄い木材なのだから、やがては宝物殿の壁だって又正倉院のように厚い木材で造るようになるかも知れないね。」

先生は、どうだと言わんばかりに新吾君の方を見ました。

「先生、水は木には邪魔なはずだが、都合よく働く事もあるんだね。」

「そりゃそうだ。人間だって水が無ければ死んでしまう。」

「要するに釣り合いの問題だよ。なんでもほどよくやらなきゃいけないのさ。」

丸善株式会社 刊

上村武 著

棟梁も学ぶ木材のはなし

から、一部ご紹介しました。

とにかく古い本です。平成6年初版、すでに絶版とか・・・。

酒好きの先生と親方、見習い大工の新吾くんのおしゃべりを通して、木材のあれこれを解説してくれています。

手に取る機会がありましたら、是非お勧めしたい一冊だと思います。

  

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